内部統制が有効でないのはこんな理由だった
各紙で報道されているとおり、金融庁はこの3月期までに決算を迎えた2672社の内部統制報告書の「評価結果」を公表しました。
http://www.atmarkit.co.jp/im/cits/serial/soxcolumn/15/01.html
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その結果、全体の2.1%に当たる56社が「内部統制は有効ではない」と報告しており、0.3%に当たる9社が「評価結果を表明できない」としています(なお、その後7月になってから同報告書を提出した2社のうち1社が「有効ではない」と報告しており、7月末現在では57社が有効ではないに該当しています)。
「米国でSOX法が施行されて初年度に当たる2004年の決算にかかわる内部統制の非有効率が16%であった」ことと比較すれば、また、米国では中小規模の会社を適用除外としていたことを考慮すると、わが国の内部統制の評価結果は極めて良好といえましょう。
今回は有効でないと評価された会社の、内部統制のどこが有効でなかったのか、具体例を見てみましょう。
全社的な内部統制の欠陥例
内部統制報告書はEDINETで公開されていますので、インターネット上で見ることができます。そこで、金融庁が公表した例を見てみると、
当社は、財務報告に関するリスクの評価と対応を実施していない
前代表取締役が社内規定による職務分掌や承認手続を無視し、独断で約束手形の振り出しを行った
前取締役が、定められた取締役会の承認を得ずに債務保証を行った
内部統制の基本的要素である「統制環境」「情報と伝達」「モニタリング」に不備がある
などが挙げられます。1は内部統制がないに等しく、典型的な欠陥の例ですね。2と3はせっかく社内に規定があるのに、1つでもそれを無視した行為が役員により行われたことで台無しになってしまっています。
4については、「統制環境」「情報と伝達」「モニタリング」にそれぞれどのような不備があるのかによりますが、あわせて考えることで「重要な欠陥」に相当するということでしょう。
決算・財務報告プロセスに関する欠陥
ここでは、かなり具体的に決算・財務報告プロセスの統制上の欠陥が記述されています。
●海外子会社の統制不備
子会社の繰延税金資産の回収可能性の判断の適用を誤り、さらにそれに対する牽制が十分機能しなかった
在外統括会社の「傘下会社に対するモニタリング」が適切に実施されなかったため、海外子会社による不適切な会計処理が行われた
現在、数多くの企業が海外展開をしており、海外子会社の内部統制については盲点となっている例が数多くありました。この点は、今後も要注意なところですね。
●決算作業の不足
当期の決算作業についての決算手順書などが整備、運用されていない。連結決算のために必要となる情報の収集に不足がみられる。開示資料の作成に際し、責任者による査閲などが実施されていない
この表現はあえて会社でそうしたのでしょうが、具体的な内部統制上の不備の内容が書いていないので、株主などの「内部統制報告書を読む人」には何のことか分からない不親切なものとなっています。
●内部統制手続の不備
連結決算および開示に係るマニュアル・チェックリストが適切に作成されておらず、グループ会社への情報伝達、役割分担、数値検証など一連の処理手続にて、適正な査閲、分析および監視する内部統制手続が不十分
この表現も同様分かりづらいですね。
●会計基準適用が不十分
決算処理手続における処理内容および会計基準の適用の検討とその承認手続の運用が不十分であったため、たな卸資産への諸掛り経費の配賦計算、連結決算における未実現利益消去に伴う繰延税金資産の計上などについて誤りがあった
一般的に企業としては、「不備の内容をあまり赤裸々に書きたくない」と考えるのだと思いますが、これだと社内での改善には役に立ちません。恐らく、「社内の不備改善のための報告書」が別に存在している、という会社が多いと思われます。しかし、2重の報告書作成は、それこそ効率的ではありません。
重要な業務プロセスに関するもの
これらの例をざっと見ると、「手続きの運用ができていないことにより、重要な修正を行った」という形が多いですね。せっかく手続きが設定されているのに、それに従った処理がなされていないという、よくあるケースです。
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また、「能力のある担当者によって適切に査閲、分析および監視する内部統制が有効でない」というタイプの不備もあります。これは、実体は分からないですね。そもそも“能力ある経理担当者”といっても、どの程度の能力があればいいのかという基準がありませんし、こういう書き方になるのは、恐らく、重要な誤記載が起こったために「内部統制が有効ではない」という表現の内容を、いわば包括的に記載したのでしょう。
そして、ここでも子会社のプロセスの内部統制が問題であるケースがあります。
●子会社のプロセスが不十分な例
営業部門において、適正な売上計上に必要な契約内容の確認および承認手続の運用が不十分であったため、当期の売上高について重要な修正を行うことになった
輸入原材料仕入プロセスおよび在庫管理プロセスの一部において、適正な仕入計上および在庫計上に必要な承認手続の運用が不十分であったため、当期の買掛金および棚卸資産について重要な修正を行うことになった
新規の非定型取引に係る業務プロセスならびに固定資産の減損会計および税効果会計に係る業務プロセスにおいて、能力のある経理担当者によって適切に査閲、分析および監視する内部統制が有効でない
連結子会社の売上プロセスにおいて、商慣習上顧客との間に契約書が一部未締結であったり、売り上げの基礎となる納品の事実を証する書類などを取り交わすことなく業務を遂行していたことが発見された
システムの保守および運用の管理を適正に行うため、「運用・保守管理規程」を定めて遵守することが義務付けられているが、コンピュータデータの保全手続において、当該規程の運用が不十分であったため同データの一部が消失し、会計データの修復作業を行った。ただし、バックアップデータ復元作業のテスト実施が十分でなく、バックアップデータ消失のリスクを予見できなかった
1と2は、典型的なチェック漏れによる誤記載だと思われます。3は、「能力ある経理担当者による」と書いてありますね。恐らく、監査法人に記載した経理処理の間違いを指摘された会社が、このようにコメントしたのでしょう。4の連結子会社については、前述しましたが、なかなか目が届かないところがあります。今回は欠陥とならずに通った会社でも、これからも要注意項目です。5は、システムの「運用・保守管理規程」はあるが、ちゃんと運用されていなかった、という例ですね。これも、「規定はあるが、守っていない」の典型例です。
期末日以降に是正された重要な欠陥
「事業年度の末日後に重要な欠陥を是正するために実施された措置がある場合」には、その是正措置の内容と有効性を「付記事項」として記載できることになっています。
これは、期末には間に合わなかったとしても、企業としてできるだけ早く是正することが重要であること、そして、是正されていることを、株主ほか関係者に開示することが双方の利益にかなうからです。
実際、評価結果に「重要な欠陥があり、内部統制が有効でない」と記載した56社のうち、事業年度の末日後に重要な欠陥を是正するために実施した措置を記載し、かつ、内部統制報告書提出日までに、重要な欠陥が是正されたと記載した会社が11社ありました。
会計監査人の意見の記載について
そのほか、56社の内部統制報告書に対する「内部統制監査報告書」における監査人の意見は、55社が無限定適正意見、1社が意見不表明でした。
さらに、評価結果に「重要な欠陥があり、内部統制が有効でない」と記載した56社の「財務諸表に対する監査報告書」の監査意見は、54社が無限定適正意見、1社が限定付適正意見、1社が意見不表明でした。
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これまで、この連載「SOX法コンサルタントの憂い」をご愛読いただきありがとうございました。この回をもちまして、SOX法については最終回とさせていただきます。なお、これからは新連載「経済危機の本質とリスクマネジメント」を予定しておりますので、引き続きご愛読ください。
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筆者プロフィール
鈴木 英夫(すずき ひでお)
慶應義塾大学経済学部卒業、外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務める。2004年から、同社のSOX法対応プロジェクトコーディネータ。現在は、aiリスクコンサルテーション代表、内部統制・リスクマネジメントコンサルタント。プランナー・オブ・リスクマネジメント、内部監査士。神戸商工会議所登録エキスパート。危機管理システム研究学会会員、リスクマネジメント協会「大阪企業広報リスク研究会」リーダー。
著書:『図解日本版SOX法』(同友館、共著)
近著:『日本版SOX法実践コーチ』(同友館、共著)
連絡先: ai-risk330@jttk.zaq.ne.jp
Webサイト:http://spinel3.myftp.org/hideo/profile.htm
■要約■
内部統制が有効でなかったケースの1つ目は、「全社的な内部統制の欠陥」があった場合だ。「財務報告に関するリスクの評価と対応を実施していない」や「前代表取締役が規定などを無視して独断で約束手形を振り出した」など、そもそも内部統制がないに等しいケースもあった。次に挙げられるのが「決算や業務プロセス上の欠陥」であるが、「海外子会社の統制不在・運用不備」や「間違った決算作業」「会計基準適用が不十分」「売上計上やIT運用・保守管理についての内部統制手続の不備」などがあった。
これらを総合的に見ると、「手続きの運用ができていないことにより、重要な修正を行った」という形が多い。これは、「手続きを設定したものの、実際にはそれに従った処理がされていない」というケースだ。また、「能力のある担当者によって適切に査閲、分析および監視する内部統制が有効でない」というタイプの不備も多い。これは、能力のある担当者というものがどの程度の能力を指すのかの判断が難しい。
そのほか、「事業年度の末日後に重要な欠陥を是正するために実施された措置がある場合」もあった。具体的には、内部統制が有効でないと記載した56社のうち、事業年度の末日後に重要な欠陥を是正するために実施した措置を記載し、かつ、内部統制報告書提出日までに、重要な欠陥が是正されたと記載した会社が11社あった。
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