BPM:筋肉質で俊敏な企業になるために(第二章後編)
前回まででBPMは皆さんの業務改善に大きく寄与できるものであることが概ね理解していただけたと思います。ここではもう少しBPMの効果を掘り下げて考えてみましょう。
http://it.impressbm.co.jp/e/2009/08/07/1158
3. BPMの効果:業務改善の視点から
1)可視化による効果
業務の可視化、つまり業務をビジネスプロセスとして整理することで、業務の流れが誰の目にも明確にわかるようになることは既に述べました。もちろんこれだけではBPMとしては不完全なのですが、実はこの部分だけでも企業にとっては大きな価値が期待出来るものなのです。一章で述べたように、今の時代においては「企業がいかに変化に素早く対応できるか」は非常に大きな課題です。変化に対応するということは、生産性を下げることなく業務を迅速に変える必要が出てくるということになりますが、その可否は可視化ができているかいないかで大きく異なってきます。
例えば市況が変わり、皆さんの企業で新商品を扱うことになったとします。新商品を扱うにあたり「どの組織で扱えるか」、「リソースは足りているか」、「商流はどうなるか」「社内外との業務処理はどうするのか」等を早急に明確にする必要があります。社内外との業務がビジネスプロセスとして可視化されていれば、新商品に関わるプロセスとそれを構成するサブプロセスについて、既存のビジネスプロセスを参考にしながら「人」、「もの」、「金」の観点から短期間で検討することができます。またどの部署で扱うのが効果的かを比較検討することも出来ます。複数の組織を横断的に「可視化」することで全体最適を図るころが出来るようになるのです。一方、可視化できていなければ皆さんは感覚的に判断するしかすべがなくなってしまいます。その結果、扱ってはみたものの業務処理がまちまち、或いは行き当たりばったりの処理となり、顧客に迷惑をかけることになりかねません。これでは全体最適どころか部分最適もままなりません。
こうして「可視化」により企業は俊敏性を備え、全体最適を図る組織の集まりへ変わって行くことができるのです。
2)最適化と標準化による効果
次に「最適化」と「標準化」です。業務を、重複している作業や無駄な作業を無くして「最適化」し、皆が同じ進め方でできるように「標準化」して行くものであることは既に述べました。ここでの効果は改めて説明するまでもなく、業務の効率化・業務品質の均質化そのものです。
例えば皆さんが人事異動などで組織を移った時のことを思い起こしてください。業務のやり方は以前の組織と同じでしたか?もちろん全く異なるビジネスをしていればやり方が異なるのはしかたないことでしょう。しかし同じような形態のビジネスであってもやり方がずいぶん違うなと感じたことはありませんか?例えば何か外部に発注するとしてそのときに承認をもらう経路、役職、人数などの違いにとまどったことはありませんか?ではどちらのやり方が効率的なのでしょうか。特に合併や買収を経た企業では何年かたっても組織ごとに違うやり方をしていることが往々にしてあります。もちろんそれぞれの文化というものもあり、どちらか一方のやり方が悪いということではないと思います。しかし両方の良い面を取り入れて同じやり方にすることで効率が上がるとは思いませんか?
さらに「標準化」は業務のシステム化を進める際に大きな意味を持つことになります。もし「標準化」が進んでいなければ同じソフトウェアを導入したとしても組織ごとにカスタマイズしなくてはならず、せっかく良いソフトウェアを入れても費用がかさんでしまうことになります。また、同じソフトウェアでは組織ごとの要件を満たせないといったことにもなりまねません。又、ワークフロー(次回「5. BPMと情報システム」参照)は業務の流れ自体をシステム化しますが、標準化が進んでいないことにより、組織ごとに別々のワークフローが混在することになるとせっかくのシステム化もあまり効率化に繋がらず、かえって保守のコストがかさむばかりということになってしまいます。
3)共有化による効果
ビジネスプロセスの内容をマニュアルや規程として文書化し、組織の中で共有し活用することが「共有化」であることは前述しました。前回の「2)BPMとは」の冒頭でも述べましたが、特定の人だけが作業の進め方を分かっている状態ではその人に何か起きたときに業務は止まってしまいます。これを「属人化」といいます。作業の進め方が「共有化」されていれば、他の人が替わりに業務を行うことが出来ます。もちろん組織の全員が同じレベルで全ての作業を理解している必要はありません。 作業の進め方がマニュアルや規程等で文書化されており、それを見れば誰であっても(多少余計に時間はかかったとしても)業務が出来れば、業務そのものが止まってしまうことはないからです。
また「共有化」が進むと、それを業務そのものの効率化に繋げることも出来るようになります。例えば突然たくさんのお客様から注文をいただいたとします。普通は一人で処理をしているので3日間かかってしまいます。それほど繁忙でない他の人が2人手伝えば一日で終わらせることができます。このようにリソースを臨機応変に配分して組織全体として最適な対応ができるようになります。
4.BPMの効果:リスク・マネジメントの視点から
さて、ここまでBPMを業務改善のための有効な手法という観点で見てきましたが、実はBPMの効果はそこにとどまりません。近年大きな話題となっている企業におけるリスク・マネジメント、また日本版SOX法への対応においても大きな効果を発揮します。
1)リスク・マネジメント
企業はその事業運営において多くのリスクにさらされています。またそのリスクをどう管理するかは企業の大きな課題になっています。企業におけるリスクを認識し、その発生をどのように回避するかは、エンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)という形で論じられているので皆さんも目にしたことがあると思います。もちろんBPMが対象にするのは一義的にはビジネスプロセスに係るリスクですが、BPMを通じて会社全体のリスク・マネジメントのレベルが向上する副次的効果もあります。
リスク・マネジメントはまずリスクを正しく認識するところから始めます。そのためには現在のビジネスプロセスにおいてリスクが存在するプロセス(業務)をはっきりさせる必要があります。ビジネスプロセスではその構成要素がサブプロセス、入力、出力という形で明確に認識出来るので、それぞれについてリスクの存在場所としての洗い出しができます。
例えば、前出の「注文処理」のビジネスプロセスであれば、
与信金額を超えて受注するリスク
受注した注文が滞留して処理されないまたは遅延するリスク
注文とは異なった商品を出荷するリスク
納期を守れないリスク
といったリスクが考えられます。
ここで、「与信金額を超えて受注するリスク」は「与信」からの出力で「受注」への入力となる「与信情報」に着目することで捉えます。「受注した注文が滞留して処理されないリスク」は「受注」のサブプロセスに着目して捉えることができます。「注文とは異なった商品を出荷するリスク」は「受注」からの出力で「出荷」への入力となる「出荷指示」に着目することで捉えます。「納期を守れないリスク」は「受注」からの出力で「出荷」への入力となる「出荷指示」と「出荷」のサブプロセスに着目して捉えることができます。
こうして認識したリスク等に対して適切な回避策を講じ、またリスクが実際に発生した場合であってもその影響度合いを最小にして迅速に解決する手段を講じることができるようになります。例えば「与信金額を超えて受注するリスク」に対しては、「与信金額を超えた顧客に対しては、受注ができないように受注処理システムを設定する」といった対応策を講じることが可能です。「受注した注文が滞留して処理されないまたは遅延するリスク」に対しては、「受注数を定期的に監視し、受注数が増加した場合には受注管理担当者が責任者或いは生産管理の担当者に連絡し、必要なリソースを適宜増やす」といった仕組みで対応をすることが考えられます。BPMではこういった一連の作業を構築して管理・運用してゆくことができるのです。
図1 ビジネスプロセスに係るリスクの例:注文処理におけるリスク(図をクリックで拡大)
2)日本版SOX法への対応
さて、リスクといえば日本版SOX法を思い出す方も多いことと思います。実は日本版SOX法への対応は前述のリスク・マネジメントのひとつの事例に他なりません。日本版SOX法ではリスクを「誤った財務報告がなされるリスク」に限定してリスク・マネジメントを行うことになるわけです。
日本版SOX法対応では、財務報告に係る活動という観点から対象ビジネスプロセスを整理して「誤った財務報告がなされる」リスクを洗い出します。そしてそれらのリスクに対する統制を設計し、管理・運用して行きます。皆さんの企業でも日本版SOX法対応のために業務フロー図等を準備したことと思います。つまり、非常に対象を限定したものではあるにせよ、日本版SOX法対応を行った皆さんはすでにBPMを行っているとも言えるわけです。ここからさらに対象を広げてもっと広範なリスク・マネジメントそして、「標準化」、「共有化」を進めての業務改善に繋げることが出来ます。
本コラムは、ビジネスプロセス革新協議会(BPIA)で活動するビジネスプロセスマネジメント(BPM)研究会のメンバーが協力して執筆しました。BPIAは、次代の企業に相応しい組織・業務革新の「あるべきモデル」「導入活用定着手法」を究明し、企業競争優位性の確立とビジネスの生産性向上を目指して1999年に設立されました。また、BPM研究会はITベンダー、ITコンサルタント会社、ユーザー企業で実際に業務革新に取り組んできた専門家が、最も効果的/実践的な業務革新の手法を探求しているグループです。
執筆 執筆協力
渥美 懋(ビジネスモデル)
田岡 賢輔(富士ソフト)
吉岡 亮(三井物産)
赤城 宣幸(協和エクシオ)
松尾 光 串田 昭治(クシダ経営研究所)
濱田 隆一郎(シグマクシス)
安田 正義(アガトン)
福田 雅人(三技協)
青山 修二・臼井 琴美(BPIA事務局)
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