適正な文書管理プロセスを確立し、コンプライアンスを確実に実践する
米国で2002年に制定された米国企業改革法(Sarbanes-Oxley Act:通称SOX法)の規定は、コンプライアンス要件を満たす文書保存ポリシーを正式に策定する必要性をCIOに認識させるきっかけとなった。だが、SOX法の規制要件や、日々作成される文書の数は増える一方である。そこで必要となるのが、適正な文書管理プロセスだ。CIOは文書保存ポリシーを策定し、エンドユーザーの支持を取り付け、そのための技術を管理するなど、四苦八苦しながらこの問題に取り組んでいる。主要企業のCIOで構成される団体「CIOエグゼクティブ・カウンシル」では、コンプライアンスの問題について議論すべく定期的に会合を開き、効果的な文書保存ポリシーを策定するための方法について情報を交換している。以下では、そのメンバーへの取材を基に、効果的な文書保存ポリシーの策定法を紹介することにしたい。
http://www.ciojp.com/contents/?id=00005565;t=51
キャリー・マシューズ ● text by Carrie Mathews
適切なポリシーを策定する
「ポリシーを正式に制定する前に、まず適当に選んだ10人にその内容を説明してみることだ。10人のうち7人が賛同してくれるのであれば、自社の企業文化に即したポリシーをおおむね正しく策定できたということだ」とアドバイスする、アメリカン・グリーティングス・インタラクティブの上級副社長兼CTO、ラジフ・ジャイン氏
まず最初のステップは、必要な項目がすべて文書管理ポリシーで確実に網羅されるようにすることだ。そのためには、CIOはビジネス部門の同僚や外部弁護士のほか、規制順守のための専用のツールキットなどを活用することになる。
ジョージ・ワシントン大学でCIOを務めるロン・ベーニヒ氏は、「文書保存ポリシーを徹底的に見直すにあたって、私は法務顧問と協力する必要があった。我々のどちらかが関与していなければ、おそらくこの取り組みは成功していなかっただろう」と、必要な項目を網羅するためには法律の専門家の助力が不可欠であったことを訴える。
ちなみに、ジョージ・ワシントン大学では請負契約や人事に関連して、召喚状や電子証拠開示の要請を受け取ることがある。同僚らの参加と支持を取り付けるために、ベーニヒ氏はそのことを引き合いに出して「優れたポリシーを策定し、コンプライアンスを確実に実践することの“財務上の見地から見た重要性”」を強調したという。「文書保存の規定に従わないと、連邦訴訟に巻き込まれた場合に膨大なコストがかかることになる。私がそのコストの実額を示したとたん、ほとんどの人がポリシーの重要性を認識してくれた」(同氏)
米国では、HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)によって、医療機関における患者情報の扱い方が厳しく規制されている。セコイア地域医療センターで情報サービス担当ディレクターを務めるマイケル・ガスキン氏は、そうした規定に準拠するポリシーを策定すべく、HIPAAセキュリティ・ツールキットを購入したという。「このツールキットのおかげで、文書を点検したり、プランに何を盛り込むかを決めたりといった作業を簡単に実行することができた」と同氏は語る。同氏は今も、このツールキットのワークフローによって、コンプライアンスのニーズや文書保存ポリシーの更新に関する情報を入手しているという。
関係者間の利害を調整する
世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロールミタル・アメリカでCIOを務めるレオン・シューマッハ氏によると、文書保存ポリシーを策定するにあたっていちばんに考慮しなければならないのは、さまざまな関係者の要望に十分に耳を傾けることだという。「それぞれが個別の問題を抱えている。文書保存ポリシーの策定に際しては、事前に、あるいは策定作業中に十分にコミュニケーションを図ることが成功のカギになる」と同氏。
例えば、シューマッハ氏のチームは、どのくらいのメールを保存できるかなど一応の目安を踏まえたうえで、各ユーザーのストレージ容量を制限する管理ポリシーを策定した。ところが、ユーザーからは「そのストレージ容量では不十分」との不満の声が上がった。そこでシューマッハ氏はユーザーを2つのグループに分類し、それぞれに別個のポリシーを適用するという方法でこの問題に対応することにした。経営陣には500MBのストレージを、それ以外のユーザーには250MBのストレージを与えたのだ。同氏のチームは現在、制限をさらに緩和すべく、新たな保存ソリューションの策定に取り組んでいる最中だ。
計画は長期的に
文書保存ポリシーでは、長期間に及ぶ文書保存もカバーしなければならない。大学にとって、これは大きな問題である。大学では、奨学金に関するデータや成績証明書など、連邦政府によって定められた各種のデータを長期にわたって保存しておく必要が生じるからだ。「問題の1つは、電子フォームで保存してある文書を年月の経過とともに確実に新しい技術へとアップグレードし、移行できるようにしなければならないことだ」とジョージ・ワシントン大学のベーニヒ氏は語る。
そのため、同氏のチームはストレージ技術の進歩に常に目を向け、新しい技術に移行するかどうかの判断を、必要に応じて迅速に下せるようにしている。
波及効果も
アルセロールミタル・アメリカのCIO、レオン・シューマッハ氏。氏は、文書保存ポリシーを策定するにあたっていちばんに考慮しなければならないのは、さまざまな関係者の要望に十分に耳を傾けることだと指摘する
優れた文書保存ポリシーを策定するメリットは、「法的な罰金を回避できる」ということだけではない。アメリカン・グリーティングス・インタラクティブの上級副社長兼CTO(最高技術責任者)、ラジフ・ジャイン氏によると、同社では、デスクトップ上のすべての要素を保存するほか、幹部らのメールはすべて無期限で保存するというポリシーを定めている。そして、そのメール保存ポリシーは、実際に非常に役に立っているという。
「以前、ベンダーとの交渉で料金を巡って意見の食い違いが生じたことがあった。その際、我々はそのベンダーから送られてきたメールのオリジナル版を探し出せた。そのメールのおかげで、我々は自分たちの主張が正しいことを証明でき、当社には相手側が請求してきた金額を支払う義務がないことを立証できた」(同氏)
優れた文書保存ポリシーを策定して施行することにより、経営戦略上のメリットが生まれることも期待できる。
ジョージ・ワシントン大学では、事務管理部門の職員の大半は、ワシントンD.C.から30マイルほど離れたバージニア・キャンパスで働いている。ワシントンD.C.のキャンパスで勤務しているのは、学資援助や学部入学試験を担当する職員など、学生課の一部職員のみだ。そのため、学生から何か複雑な問い合わせが寄せられた場合には、担当者はバージニア・キャンパスの専門スタッフに相談することもある。そのような場合、今では、双方が同じ文書を同時に閲覧することができるという。ベーニヒ氏と同氏のチームが保存のために文書のデジタル化を行ったからだ。「おかげで、業務プロセスを大幅に改善することができた。どこからでも学生にサービスを提供できると自負している」と同氏は胸を張る。
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