景気後退局面でCIOに求められる、「戦略的コスト削減策」
「100年に1度」とさえ言われる未曾有の経済危機下にあって、CIOには今、IT分野全体にわたるコスト削減と「選択」と「集中」をキーワードにしたIT投資が求められている。単にコストを削減するだけではなく、企業としての将来の成長を見据えて、支出を抑制すべき分野と、不況下においても積極的に投資を行うべき分野を峻別する必要があるのだ。そのためには、高所からのIT資産の見直しと、競合他社に差をつけることのできる戦略的IT投資が欠かせない。そこで本稿では、景気後退局面において、「何に投資」し、「どこを削る」かを判断するためのさまざまなヒントを紹介することにしたい。
クリス・ハワード ● text by Chris Howard
http://www.ciojp.com/contents/?id=00005335;t=0
支出の削減と投資の選別を進める
かつて、ローマ帝国の初代皇帝であるアウグストゥスは、戦を前にした将軍たちに向かって「Festina lente!」(急いでいるときにはゆとりを持ち、ゆとりがあるときには急ぐことを意識せよという意味のラテン語)と、彼らのはやる気持ちを鎮めた。この訓示は、金融機関の相次ぐ破綻や世界規模での不況に直面しているCIOにとっても、非常に示唆に富んだ言葉だと言える。
アウグストゥスの訓示を現代の企業のIT戦略に当てはめるとすれば、「IT関連プロジェクトやそれに対する予算、スタッフの新規雇用といった重要な課題は、焦って決定してはならない。現状をしっかりと見極めたうえで行動せよ」とでも解釈することができよう。
景気後退の影響は企業によって千差万別だろうが、1つだけ確かなのは、どの企業にとっても、今が、IT支出を見直すよい機会だということだ。別の言い方をすれば、景気後退局面だからこそ、戦略的な投資を行うことで競合他社に大きく差をつけることができるのである。
例えば、自社で保有するデータセンターの運営コストを削減したいのであれば、仮想化技術を採用したりアウトソーシング・サービスを積極的に利用したりすればよい。また、IT基盤全体を見渡せば、遊休資産やシステムの意図していなかった冗長性なども発見でき、いっそうのコスト削減が図れるはずだ。
さらに、プロジェクトやスタッフの生産性を向上したいのであれば、Web 2.0技術を採用したコラボレーション・ツールを活用して、複数の拠点間における連携を強化すればよい。
その一方で、昨今では、ビジネス・パートナーのスタッフが社内に頻繁に出入りするケースが増えているため、そうした外部スタッフの管理も適切に行う必要がある。
こうしたことを実現するために、企業には今、手持ち資産を慎重に管理しつつ、いかなる場合においても常に“倹約”を念頭に置いて業務を遂行することが求められている。ただし、支出を減らすとは言っても、ITシステム──ひいては企業としての業容や業績──の現状維持に努めればそれでよいというわけではない。肝心なのは、あくまでも投資の優先順位を明確にしたうえで、戦略的にIT投資を実行していくことなのである。
そこで以下では、IT支出を節減するための方策や付加価値の高い投資分野などを紹介していくことにしたい。
不要なIT資産を整理・統合する
IT基盤のコスト削減を考えた場合、真っ先に取り組むべきは、データセンター関連設備の整理・統合である。例えば、サーバ仮想化技術やストレージ仮想化技術を活用すれば、データセンターの拠点数や使用しているハードウェアの数を減らすことができ、コストの大幅削減が図れる。
効果的にコストを削減する方法としては、そのほかにも次のような手段がある。
●ベンダーの数を減らすとともに、利用している機能やサービスの重複をなくす。
●ユーザーのPCにインストールされているアプリケーションの中から、職務に関係のないものを削除する。
●ベンダーとの間で締結している契約内容を見直し、さほど利用していない機能/サービスを契約から外す。
●保有するデータを減らす。
●重複しているビジネス・プロセスを取り除き、効率化を図る。
IT資産を整理・統合する際には、個別のアプリケーションを全体最適の視点からとらえ直し、現在のIT基盤にそれが本当に必要であるかどうかを正確に判断する必要がある。そうすることで、不要なアプリケーションを排除することができるし、必要に応じて新規アプリケーションの導入や既存アプリケーションの機能拡張なども行えるようになるのだ。
保有データを減らす
米企業改革法(SOX法)などによってデータの取り扱いが厳しく規制されるようになったことで、コンプライアンス上の観点から保存しておかねばならないデータが、ここにきて急激に増大している。つまり、企業にとってはその分、“保管場所”として多くのストレージが必要になってきているわけだ。だが、不用意にストレージを追加したのでは、単純にその分だけコストが増えてしまうため、企業には、データ・デデュープ(データ重複除外)ツールの導入など、ストレージ容量を抑制するための取り組みが求められている。
その際、CIOは、こうした事態を単なる“手間”ととらえるのではなく、効率的なストレージ環境を構築したり、メンテナンス費を節減したりするチャンスだと考えて、前向きに取り組むべきである。
さらには、データの有効利用という観点に立って、データベース管理システムに備わっているデータ分析やリポート作成などの機能を積極的に利用することも望まれる。
一方、ビジネス・プロセスを改善するにあたっては、頻繁に利用するデータとアーカイブ済みのデータの両方を分析する必要があるが、その際には、ビジネス・インテリジェンス(BI)を利用すると効果的だ。しかも、BIを活用すれば、イノベーションの機会を的確にとらえることができるため、現在の厳しい経営環境においては、特に有用である。
外部サービスを活用する
コスト削減意識の高い企業では、現在、コモディティ化しているIT資産のあぶり出しを進めている。そのうえで、クラウド・コンピューティングやSaaSといった外部サービスを利用したほうがコストを削減できるとなれば、積極的にそれらを活用することで、IT支出をさらに削減しているのである。
また、仮想化環境を的確に管理できるツールが登場してきたことで、今後は、自社のITリソースを仮想化する企業もいっそう増加するはずだ。
今日、テスト環境として仮想化環境を利用している企業は珍しくないが、本番環境として利用している企業となると、まだ35%程度にとどまっている。ましてや、サーバ仮想化ソフトに備わっている動的リソース割り当てのような先進的な機能を使いこなしている企業ともなれば、ごくわずかしか存在しない。
だが、仮想化環境でのシステム運用が可能なサービス・プロバイダーを利用する場合は、動的なリソース割り当て機能をぜひとも活用するべきである。なぜなら、そうすれば、実際に使用したリソースの分だけ利用料を支払えば済むので、実質的なコスト削減が図れるからだ。
ビジネス部門にも合理化のメスを入れる
IT部門を単なる「コスト・センター」と認識させないためにも、ITリーダーには、「なぜそのIT投資が必要なのか」ということを、ビジネス部門のリーダーやスタッフに分かりやすく説明する能力が求められる。
その一方で、ビジネス部門側も、業務の合理化に積極的に取り組む姿勢が求められる。例えば、ITシステムとの直接的な関連性は薄いかもしれないが、ビジネス部門の非技術系プロセスなどは、IT部門のアプリケーションやシステムと同じように整理・統合の対象となる。
生まれた当初は独自に完結していたビジネス・プロセスであっても、その後の環境の変化に伴って、他のプロセスと重複する部分が出てくるのは当然だ。もちろん、重複するプロセスはすべて整理・統合しなければならないというわけではないが、積極的に合理化に取り組めば、なにがしかのコスト削減が図れることは間違いない。
コラボレーション・ツールを試してみる
Web 2.0技術をベースとするコラボレーション・ツールを導入すれば、離れた拠点間でも社員同士の円滑なコミュニケーションが図れるようになり、出張の回数を減らすことなども可能になる。また、社員間の意見交換やブレーン・ストーミングなども簡単にできるようになるため、イノベーションの機会創出という観点からも、非常に有用である。
さらに、Wikiやブログのようなコラボレーション・ツールを活用すれば、特定の知識を持ったスタッフを社内からたやすく見つけ出すことができるようになるため、プロジェクトが行き詰った際などに社内の“専門家”に助言を求めるといったことも可能になる。同時に、社内全体の知識の共有化も図れる。
Webベースのコラボレーション/情報共有ツールは、現在、テレビ会議システムからユビキタス・コンピューティングに至るまで幅広く出そろっており、自社のニーズに合わせて選択することが可能である。
ただし、「コラボレーション」はあくまで人間同士の活動を前提にしている。しょせんツールは、人間同士のコラボレーションをサポートするものにすぎず、それ自体が価値を創出するわけではないのだ。つまり、社員同士の円滑なコラボレーションを実現するためには、ツールを導入する前に、それを阻害する要因となりかねない社内の文化的、政治的な問題を解決しておかなければならないのである。
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