今日から君がCIOだ。辞令はないけどね
「君は、当社のCIOだ」とトップから言われても、辞令が伴うものでなければ、任命された側はどうすればいいのか、当然戸惑ってしまう。重要性が叫ばれているCIOの周辺でそんなことが頻発している。
[増岡直二郎,ITmedia]2008年08月19日 11時38分 更新
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0808/19/news042.html
空虚に響く「CIOの重要性」
そこかしこで、CIOの重要性が叫ばれている。しかし、企業の中の実態に目をやると、その叫びがいかに経営者から無視されているか、建前とは違っていかにCIOは優遇されていないか、その上CIO自身が自己主張がなく萎縮しているかが、見えてくる。
経営環境が変わる中CIOがますます重要性を増していることを、CIO自身はもちろん、経営者が認識しておく必要がある。その辺の事情を、CIO先進国米国の状況や日本の経営の実態を見ながら検討する。
まず、実態に触れてみたい。
電子部品メーカーである中堅企業のA情報システム部長から、筆者が相談を受けたことがある。その半年ほど前に、Aは部長会議席上でトップから「君は、当社のCIOだ」と言われた。正式の人事異動で発令されたわけでもないし、任命書を受けたわけでもなく、Aは戸惑った。Aは、どう考え、どう行動すべきか迷っていた。
筆者がAにアドバイスしたのは、以下のことである。
Aは役員でないので役員会議に出ることはできないが、トップとの日頃の接触をできるだけ増やすようにこちらから仕掛けること、仕掛けるためには経営課題を見つけてテーマを持たなければならないこと、さらに少なくとも経営に関する会議、例えば予算会議、業績会議、製品開発会議、マーケット会議などに必ず出席して、全社経営の動向を知ると同時に、積極的に議論に参加をしていくべきこと、そうでなければ役員でもない一部長がCIOを務めることはできない、ということである。
それはトップのリップサービスだった
Aは、かなり努力をしたようだ。しかし、半年ほどしてAは意気消沈して筆者の所へやって来た。ITの件でトップにできるだけ会おうとしたが、トップは「そんなことは、いちいち報告する必要はない」と言い、遂にはAに会うことをあからさまに忌避するようになった。さらに、経営にかかわる会議に出席するように努めたが、情報システム部の出番はなく蚊帳の外、周囲も何故出席しているのかという眼で見るので、出席しにくくなったと言う。
どうやら、トップが「君は、当社のCIOだ」と言ったのは行きがかり上だった感じだし、そもそもトップはCIOの何たるかをよく認識していないようだ。でなければ、かりそめにも自ら任命したCIOを軽視したり、忌避したりはしまい。しかし実は、このようなトップの姿勢は多くの企業で決して珍しくない。
中堅の電気製品販社で社内役員待遇を受けているBが、J-SOX法対応を主な理由としてCIOを任命された。Bは経理部長経験者だが定年を間近に控えて、すでにラインから外れて社長特命事項を任務としていた。そこへ、CIOの任命である。役員会議への出席も特別に認められた。この機会に、Bがかつてラインで獅子奮迅活躍していたような迫力でCIOの任務をこなしてくれれば申し分ないのだが、意欲を失ったのか、遠慮しているのか、萎縮しているのか、あらゆる機会に発言もなければ、問題提起も、提案もなかった。一方、トップもトップでCIOを尊重する素振りはなかった。
せっかくCIOに任命されながら、Bのように何の動きもなかったり、不要にトップに取り入ったり、あるいは情報システム部門代表になり下がったり、というケースが少なくない。
CIO自身の自己変革しか活路はない
しかし、CIOの重要性は高まりつつある。
CIO先進国である米国でCIOが重要視され、その制度が定着しているのは、それなりの背景がある。90年代初頭、アル・ゴアによって唱えられた「情報スーパーハイウエイ構想」、その後のIT産業の興隆、さらにインターネットの普及によって、民間企業でCIOが注目されるようになった。加えて、2001年の9・11事件によって予期せぬ緊急事態への対応や情報セキュリティの必要性などが注目され、CIOの重要性が一層認識されるようになった。
一方、1996年「IT管理改革法」によって、米国連邦政府の各省庁にCIOが任命され、CIOが各省庁のIT導入促進・運営・維持に責任を持つように決定された。
そして何よりも、米国にはCIO市場が存在する。官民の人事交流も活発である。その背景には、CIOやその候補者向けの大学院教育が整備されているように、人材教育体制がしっかりできていることがある。
筆者がビジネスで米国の大手企業を訪問して幹部に会った時、意識してCIOについての彼らの認識を尋ねてみたり、場合によってはあえてCIOに会う機会を作ってもらったりしたが、社内でいかにCIOが重要視されているか、CIO自身もいかにモラールが高いかを知らされたものである。日本の有力企業で同じことを試みても、その反応はおそらく寂しいものだろう。それは、上記の実態の例からも充分に想像される。
日本でCIOが重要視されない原因としては、トップの意識や能力の問題、組織や企業の仕組みの問題がもちろん主要部分を占めるが、CIO自身にも問題があることは、上の実態例にも示した。それでは、ダメだ。
CIOの重要性は、ますます増している。それを最も知っているのは、CIOである。そのCIO自身から変わろうとしなければならない。そのテーマについては、次回以降で触れたい。
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