IT統制時代のユーザ間連携~Beaconユーザ会会長 株式会社INAX取締役 坪井 祐司 氏
ソフトウェアのユーザーグループとして1977年の設立から30周年を迎えた「Beaconユーザ会」。情報交換や研究活動を通じて、他社や他世代との交流を図る中で、企業人としての人材育成にも大きく貢献してきた。自身もユーザ会出身で、現在は会長を務める坪井氏は、「近年の内部統制とIT統制に関わる問題は、経営者やIT技術者の『理念とシステムの一致性』に対する意識の弱さに起因している」と指摘する。
http://www.itcomp.jp/a/article.aspx?aid=225
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技術者も経営感覚を身につける時代に
IT統制は大きく2通りに分類することができる。1つは、内部監査の仕組みづくりや文書の電子化などITを用いた対応。そしてもう1つは、IT自身の統制である。坪井氏は、ITに求められている統制に対し、その影響を次のように語る。
「競争が激化する市場において、ITシステムの迅速な開発が求められるようになりました。その結果、役割分担を行いウォーターフォール型で行っていた開発プロセスが、セル生産形式に移行しつつあり、ひとりの技術者が複数の役割を果たすようになってきました。そうなると、それまで各工程ごとに準備する必要があったドキュメントが不要になり、煩雑なメンテナンスから解放される半面、システム監査の不備として指摘される可能性が出てきたわけです」
しかしながら、そこで再び以前のような開発工程とドキュメント作成を行っていくのでは、生産性の低下につながる。時代と逆行するこうした流れに対し、技術者は「本当にその監査が必要なのか」「この基準を達成するためにはここまでの資料とデータを準備すれば良い」といった本質を見定め、監査側と調整していく必要があるという。
「本来、日本の競争力は『性善説』に基づく現場の自由度にあったはずです。それを頭から否定してしまうのは、これまでの日本の強みを根本から覆すことになりかねません。つまり、IT統制をどう行っていくか、その判断は経営判断と同意義といっても過言ではありません。」(坪井氏)
坪井氏によると解決法は2つあるという。1つは、経営層がITへの理解を深めること。そしてもう1つは、IT技術者自身が経営的な感覚を身につけていくことである。
30年の歴史を持つBeaconユーザ会活動、技術者の理念理解を促進
坪井氏がこうした思いに至ったのには、取締役としてINAXの社内IT統制に関わってきた経験に加え、自身が会長を務める「Beaconユーザ会」の30年に渡る取り組みを振り返っての実感からだという。
たとえば、現在、IT統制を難しくしている要因の1つとして『パッチワーク型のシステム』がある。省コストを狙ったシステムのアウトソーシングが進み、内外のシステムを複雑に連携させることで業務を成り立たせてきた結果、統制が難しいブラックボックスの部分が出てきているというわけだ。ERPパッケージなどを導入する際に、経営理念、戦略に根ざした導入ではなく、ホストの老朽化や2000年問題など外的な要因から決定したことのツケであるという。
一方、INAXの場合は、カットオーバーが完成ではなく、常にシステムを進化させたいとの思いで、ほとんどのシステムが自社製となっている。これは、経営判断として『社内システムは経営理念に基づいているべき』という考えが反映されたためと坪井氏は説明する。さらには、あらゆる現場に重要性を説き、運用を浸透させるために経営層が率先して利用したことも大きい。
「たとえば、情報系システムをつくっても忙しい部署はなかなか使ってくれない。しかし、経営層が使うなら使うしかないわけで、全社的な徹底が図れます。その功績は大きかったでしょうね。そして同様に、システムをつくる側の社員にとってはファーストユーザがトップ層になるわけですから必然的に技術的スキルのみならず、経営感覚をもつ企業人としての成長が求められたわけです」(坪井氏)
「人をつくる」というINAXの考え方は、「Beaconユーザ会」にも共通しているという。もともとはユーザーが集まって新しい技術やメソドロジーを研究し、知恵を共有し合うことが目的だったが、そうした研究を通じてテクノロジー以外にも、異なる文化や理念を持つ企業間、経営層と現場担当者、世代を超えた交流が活発に行われている。結果として、若手技術者が技術的なスキルだけでなく、『会社とは』『システムとは』『自分が何をすべきか』という本質に触れる機会が増大し、企業人としての成長につながっているという。
日本企業の競争力を高めるITのために
「Beaconユーザ会」では、J-SOXについての勉強会をこれからも行っていく予定だ。その中では、システム構築スキルについてよりも、なぜ、何のために行うのかといった部分に重点が置かれるという。
「そもそも会計士の数やレポーティングの方式などが米国と異なるわけで、日本ならではの運用方法を考えなくてはない。一応国から指針は出ていますが、柔軟性の高いものになっています。ですから、これからの運用によって、経営層はもちろんですが、自社の競争力を担うITシステム部門も、自社の在り方とIT統制について考え、自律的に判断する機会が増えるでしょう」(坪井氏)
さらにいえば、そうした考察や判断は、1社だけでなく、日本の企業全体で共有すべきものと言える。おそらく国への指針改訂にも大きな影響を及ぼすだろう。たとえば英国では、産業界の意向もあってSOX法ではなく、事件・事故が起きた際の説明責任に重点を置く方式を採用した。SOX法を採用した日本であっても、そのままを受け入れるのではなく、環境やリソースなどを含めたあらゆる観点から、日本企業ならではの運用方法を見いだしていくことが重要と思われる。
「これから実際の運用を通じて議論がなされ、本当の意味での『日本の内部統制のスタンダード』が決まっていくのではないかと考えています。その時にエンジニアの立場で自律的な判断ができる人材が、様々な業種300社が集まった『Beaconユーザ会』によって育まれていくことを期待しています」(坪井氏)
経営者によるトップダウンと、それを支える技術者のボトムアップ。内部統制対応は「理念」と「システム」を一致させるチャンスといえる。
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